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【書評】翻訳者と編集部が頭をかかえさせる『8つの難問』

2012/02/22 14:50

 

([総括]、更新2、[ミスなど]を追記)

 

[総括]

 本書は基本的には良書である。他書だと省かれるような学者の考えの筋道や証明過程が垣間みられる。つまり雰囲気に浸れる。が、著者は優しくは無い。条件を満たす最小の頂点の数は5個とあるが、図にその5個を示してくれるほど優しくは無い。読者が考えなければならないのだ。また、大学レベルの知識を要求している。

 悪いことに訳者小野木明恵には数学、科学やコンピュータの素養は無いし、おそらく興味も無いのだろう。なので、訳文が判じ物になっている。

 校閲も酷く、原書のミスをそのまま掲載している。なので、証明がでたらめになっている箇所もある(詳しくは下記)。

 

 小野木のpoorさ加減を示す例がp33にある。「ヘッセ-カッセル方伯」という訳がある。原文は"landgrave of Hesse-Cassel"。小野木はゆとり世代ではないと思う。小野木の世代ならドイツ史/地理は多少は勉強したろう。小野木はヘッセンを知らないのだろうか?

 p34にはサーでしかないニュートンに「卿」を当てているし。いやはや。

 

 索引もあるが、不十分。例えば、p230の「分離規則」は索引には無い。

 

(2012/02/21 10:21)

 

(更新1を追記)

(2012/02/21 00:07)

 酷い訳書にぶち当たってしまった。本当は原書が悪いんだけど、翻訳も校閲もできていない。Amazonのレビューは2件あるけど、本を読んでいない。

 

 さて、問題の本は『科学者と数学者が頭をかかえる8つの難問』(A. K. デュードニー 青土社 2008 訳:小野木明恵)。第一刷は2008/01/20、私の手元にあるのは2008/04/20の第2刷。

 

 問題はアインシュタインの特殊相対性理論に先行したフィッジェラルド-ローレンツ収縮の説明。ページではp80から。

速度vで流れるエーテルと直角方向に光は進まなければならない。直角方向に進むとエーテルに流されるので、エーテルの流れの川上方向に斜めに行かねばならない。なので、三平方の定理を使って実行速度v'は以下のように求められる。

 

>>光が長さPの行路を横断するのにかかる時間は、こうなるはずだ。

>>2p/v' つまり 2p/√(c2-v2)

 

2pとなってるのだから、「横断」ではなく、往復だろう。(もっとも、原書もtraverseを用いている)

 

先の長さPと直角方向の長さP'の行路を光は往復する。それにかかる時間はPを往復する時間と同じ。なので次が成り立つとしている。

 

>>P'/(c-v)+P'/(c+v) = 2P/(c2-v2)

 

 上記の式は大間違い。右項の分母は(c2-v2)ではなく√(c2-v2)。

 

 p81に移る。

 

 上記式を通分して

 

>>2cP'/(c2-v2) = 2P/(c2-v2)

 

これも大間違い。

 

>>まずは、両辺にc2-v2の平方根を掛ける。

>>2cP'/√(c2-v2) = 2P

 

 これで正しい式が出現したのだが、

(c2-v2) = (√(c2-v2))2

なので、右項にc2-v2の平方根を掛ければ、2P/√(c2-v2)だ。

 

 青土社って科学本を出していたので、結構信頼していたのに。

 それにしても、翻訳者の小野木は訳していて違和感を覚えなかったのだろうか。

 翻訳とは、原書の校閲も兼ねるんだよ。

 

(追記1)

 p116からの原書のベルの定理の説明も分かりにくい。従って、訳文も同様。

訳文が劣化させいるものは

>>関数XYからは(略)回数がわかる。

原文は

The function XY simply tells us the number of times

小野木は「関数」を理解しているのだろうか。私なら「関数XYは(略)回数を求める」と訳す。

 

ベルの定理の説明の分かりにくさを示そう。原文の直訳なので原文も同様に分かりにくい。

 

>> A 0 1 0 1 0 0 0 1 1 0

>> B 1 1 0 1 0 0 1 0 1 1

>> C 1 1 1 0 0 1 0 0 1 1 

 

>> (略)さらに関数XY(x,y)も導入する。XとYは二つの別々の行の名称で、

>> xとyは各行で同一の列に入る二つの値である。

>> 関数XYからは、行Yのyがある列において、その列の行Xにxが現れる回数がわかる。

>> 先の例ではこうなる。

 

>> AB(1,1) = 3

>> BC(0,1) = 2

>> AC(1,1) = 2

 

私なら次のように関数XYの説明をする。

「関数XYは次のように回数を求める。行Yを横に見て行き、値がyなら、行Xの同じ場所を調べる。調べた場所でxが現れる回数を求める。」

 

 こうして、ベルの不等式の行の長さが1の場合を証明して長さ1以外の場合を包含する記述となる。

(p118)

>> ここですべての列の三つの関数それぞれにたいする付与を足すと、

>> 不等式に単独で従い、

>>その結果全体としても不等式に従う関数の値をつねに足していることになる。

>>これで、ベルの定理が証明できた。

 

この論法はこうだ。「個々の単独の場合はベルの不等式に従うよ。だから、足し合わせたものも、ベルの不等式にしたがうよね。」

原文もそうなっている。

>> I will always adding function values that obey the inequality separately and, therefore, colletcively as well.

(個別では不等式に従う関数の値を足し合わせている。ゆえに、全体でもそうなる。)

 

小野木の訳文だと「全体としても不等式に従う関数」という証明したいことがいきなり結論の理由として使われていることになる。

 

(追記2)

 p230

>> T->(~T->q)

>> Tは真であるため、分離規則をもちいて、

>> ~T->q

>> もまた真であることを確認する。

(「確認する」ねえ。"confirm"の訳かと思ったら、違った。"establish"だった。そもそも分離規則を適用されたものは真なのだ。「確認」もへったくれもない。)

 

 p261にトゥエの書き換え問題に触れていて、例がでている。

 書き換え規則: TCX->RNC

 

 以下の例がある。

RTCXUPN(略) RPNCUPN(略) 

 

 2項目のRPNはRRNの誤植だろう。訳者も編集も本書を読んではいない。

 

 p268 このマシンも、基本的なスイッチ切替機能を真空管をもちいて実行した。(「このマシン」とは初期のコンピュータである、チューリングが関わったPilot ACE。「スイッチ切替機能」の原文は"switching function"。コンピュータ業界では、switchingはスウィチングと訳される。)

 

 p269 全光学的コンピュータ ("all optical computer"。「光コンピュータ」って小野木は聞いたことがないのかなあ?)

 

 p288 NC (nxn 市松模様) (原文は"NC (nxn checkers)"。nxnはn×(かける)nのことだと思うんだけど。)

 

 p292 (頂点被覆問題の被覆について)ここで言う被覆(カバー)とは、次のような部分集合Cのことである。グラフのすべての線(つまり辺)がCの中に少なくとも一つの頂点を持つような点による部分集合である。(「次のような頂点の部分集合Cのことである」って書けばいいのに。次の説明も分かりにくい。)

 

 

[ミスなど]

p93 アインシュタインの相対性理論(略)時空が見慣れぬ合体をしたり (「時空が見慣れぬ合体をした」とは? "strange amalgamation of space and time"が原文。相対性理論により、時間と空間という個別の概念から時空という概念に変わったことを指すのだろう。この文脈においてamalgamationは融合なり統合なりと訳すべきだ。)

 

p256 チューリングは(略)しつらいを使って、この問題を解決した。(「しつらい」なんて科学書で見たのはこれが最初ではないか? 最近の本でも見たことはないなあ。ちなみに原語は"construction")

 

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