【書評】
『彷徨える艦隊7 戦艦ドレッドノート』
ちょっとなあと思いつつも『彷徨える艦隊』シリーズは7巻目を手にしている。
でも「ちょっとなあ」が重なり、爆発し、原書を買ってしまった。
そして、訳者(月岡小穂)訳の不適切さに落胆した。いや、月岡も工夫はしているんですよ、裏目なだけで。
以下、目に付いたあらをあげる。
・元帥
ギアリーは元帥に昇進したらしい。「したらしい」と記したのは前巻の原文を見ていないから。
「ギアリー元帥」は原書では"Admiral Geary"となっている。海軍の将官は提督(admiral)と呼ばれる。丁度陸軍の将官が将軍(general)と呼ばれるように。だが、admiralもgeneralも称号だけでなく、階級も表す。アメリカの海軍元帥は平時には存在しないが、"Fleet Admiral"と呼ばれる。原書でギアリーが"Fleet Admiral"となっている箇所は一つも無い。単に"Admiral Geary"だ。ちなみに本書の「ティンバル提督」も"Admiral Timbale"でギアリーと同じだ。"general"が階級として使われるなら大将を意味する。
解放された捕虜が、ギアリーではなく、自分こそが司令官に成るべきだと騒ぐシーンある。ギアリーが本当に元帥なら、そして、元帥のインフレが起きていなければ、先任順位の問題は起きないだろう。
更に、原書の編制表の第一艦隊海兵隊のところにMajor General Carabali, commanding(「指揮官 カラバリ少将」)とある。だから、ADMIRAL JOHN GRARY, COMMANDINGも「司令長官ジョン キアリー大将」と解せる。ちなみにカラバリが「指揮官」となっているが、司令官が正しい。
元帥は、意図的なのかもしれないが、誤訳の可能性が高い。
・分艦隊
日本のミリタリーSFでは使われているようだが、「分艦隊」という言葉はあまり見たことがない。分派されるならまだしも、ずっと艦隊に留まっている分艦隊って?
原文はDivision。アメリカ海軍でも使う用語らしいが英語のWikipediaにも説明が無い。Squadronを「戦隊」と訳しているが、Divisionも戦隊で良いと考える。
・侵攻輸送艦
原文はAssault transport。日本は「侵攻」という言葉を嫌うのか、アメリカ海軍のAssault amphibious shipは強襲揚陸艦と訳されている。Assault Rifleは突撃銃と訳される。なので、侵攻ではなく、これも強襲輸送艦で良いと考える。
侵攻は意図である。強襲は方法である。意図と方法の混同はいただけない。
・スミス艦長
Smithかと思ったらSmytheだった。或は発音はスミスなのかもしれない(iPod Touchの「翻訳」アプリの発音は「スマイッ」のように私には聞こえた)。でも、 翻訳家の中にはスミスと区別するために「スマイス」と表記する人もいる。
・特務戦隊
原文ではTask Force。Task Forceも訳し方が難しい言葉だ。任務群かなあ。
・戦闘システム技術員
腹を立て原書を買った原因がこれ。「技術員」という言葉は以前にも出ていて、違和感を抱き続けていた。「技術員」って、なんだか、民間人みたいじゃないか。
もしかして、「技術員」って"engineer"?と思いつき、買って確認してみた。"Combat System Engineer"が原語かなと予想したのだが、ぶったまげ。単に"Combat Engineer"だった。"Combat Engineer"は「戦闘工兵」だろうが。
軍にも"Engineer"と呼ばれる兵がいる。工兵と呼ばれる。明確に線引きはできないが、工兵には二種類ある。基地を造るような工兵と前線で障害物を爆破したりする工兵だ。後者は「戦闘工兵」と呼ばれる。
このことから、月岡にはミリタリーSFを訳す資格が無い事が分かる。だって、工兵を知らないのだから。
(旧帝国陸軍では、工兵の他に、航空技術兵など技術兵と呼ばれる兵もいた。土木系が工兵で機械系が技術兵かな??)
・ブドウ弾
原語はgrapeshot。ブドウ弾が広く知られるようになったのはホーンブロワーシリーズの功績だと思う。英語としては古語だ。著者は意図的に採用したのだろうけど、単に散弾で良いと思う。
・編制表
本書の巻頭にはギアリーの艦隊の編制表が載っている。原書に掲載されている。よく見比べてみると、内容が違う。
日本語訳では艦種ごとに隊の番号ごとに並べてある。つまり、第二戦艦分艦隊、第三戦艦分艦、第四戦艦分艦隊、・・・、第一巡洋戦艦分艦隊、第二巡洋戦艦分艦隊、・・・といった具合だ。
原書では SECOND BATTLESHIP DIVISION,FOURTH BATTLESHIP DIVISION,SEVENTH BATTLESHIP DIVISION,FIRST BATTLE CRUISER DIVISION, FOURTH BATTLE CRUISER DIVISION,SIXTH BATTLE CRUISER DIVISIONとなり、次にTHIRD BATTLESHIP DIVISION,FIFTH BATTLESHIP DIVISION,・・・と続く。
つまり、原書の編制表は単なる一覧表ではなく、艦隊内の配置も示していると推測できる。編集部は情報を潰している。
・第一侵攻輸送艦分艦隊
原書ではFIFTH ASSAULT TRANSPORT DIVISION。第一と第五。誤植かな?
・対艦攻撃艦
原書ではHunter-Killer。『Lost Fleet wiki』(なんていうものがある! 貧弱だけど)によればHuKと略されることもある。
Hunter-Killerは対潜水艦用に開発された戦術で、潜水艦を探すハンターが、発見すると攻撃を担当するキラーを呼び寄せ攻撃する。だから、Hunter-Killerにもそんな使い方を想定したのだろう。兵器とは当初の目論見から乖離することがままあるけれど、「対艦攻撃艦」という訳は味気ない。
結論。編集部と翻訳者が、本書の広がりを狭め、つまらなくしている。
(文中敬称略)
『彷徨える艦隊7 戦艦ドレッドノート』(ジャック キャンベル 早川書房 2012)


by dangun
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